そもそも猫とは

猫とは

イエネコの起源は、ネズミを捕獲させる目的で飼われ始めたリビアヤマネコの家畜化である。リビアヤマネコは独立種 Felis lybica Forster, 1780とされることもあるが、ヨーロッパヤマネコの亜種 Felis silvestris lybica Forster, 1780ともされる。その場合イエネコを含むヨーロッパヤマネコの学名は、記載が古いFelis catus Linnaeus, 1758となるのが命名法上の原則である。しかしこれを原則通りに運用すると様々な支障が出ることから、2003年にICZNの強権によりFelis silvestris Schreber, 1777をイエネコを含むヨーロッパヤマネコの学名として使用できることが認められた(Opinion 2027)。つまりヨーロッパヤマネコの亜種としてのイエネコの学名は、Felis silvestris catus Linnaeus, 1758とすることができる。なおイエネコをヨーロッパヤマネコと別種として扱う場合には、イエネコの学名はFelis catusが正しい。
一方、広義の「ネコ」は、ネコ類(ネコ科動物)の一部、あるいはその全ての包括的分類を指し、家畜種のイエネコに加えて広義のヤマネコ類を含む。特に学術用語としては、英語の「cat」と同様、トラやライオンなどといった大型種を含む全てのネコ科動物を指すことがある。
起源

愛玩用家畜として同じく一般的なイヌ Canis lupus familiarisに比して、ネコは飼育開始の時期が遅いが、これは家畜化の経緯の相違による。イヌは狩猟採集民に猟犬や番犬として必要とされ、早くから人の社会に組み込まれたが、ネコは、農耕の開始に伴い鼠害(ネズミの害)が深刻にならない限り有用性がなく、むしろ狩猟者としては競合相手ですらあった。その競合的捕食動物が人のパートナーとなり得たのは、穀物という「一定期間の保管を要する食害を受けやすい財産」を人類が保有するようになり、財産の番人としてのネコの役割が登場したことによる。また、伝染病を媒介する鼠を駆除することは、結果的に疫病の予防にもなった。さらに、記録媒体として紙など食害されやすい材料が現れると、これを守ることも期待された。日本には平安時代に倉庫の穀物や経典類の番人として輸入されたことにより渡来してきたものと考えられてきたが、近年の研究では移入期が紀元前2世紀の弥生時代までさかのぼる可能性が出てきた。
農耕が開始され集落が出現した時期の中東周辺で、山野でネズミやノウサギを追っていたネコがネズミが数多く集まる穀物の貯蔵場所に現れ、棲みついたのが始まりと考えられている(リビアヤマネコの生息地と農耕文化圏が重なった地域で、複数回起こっていたと考えられる)。穀物には手を出さず、それを食害する害獣、害虫のみを捕食することから、双方の利益が一致。穀物を守るネコは益獣として大切にされるようになり、やがて家畜化に繋がった。
初めて人に飼われたネコから現在のイエネコに直接血統が連続しているかは不明確。最古の飼育例は、2004年4月に報告されたキプロス島の約9,500年前の遺跡のものである。墓は約30歳の高貴な人物のもので、人骨から約40 cm離れて埋葬されていた。キプロス島には野生のネコ科動物は分布せず、人が持ち込んだものと考えられている。また、今日のイエネコの直接的・系統的起源は明らかではないが、紀元前3000年ごろの古代エジプトで固定化されたものといわれている。紀元前1600年ごろの古代エジプトの王墓に描かれたネコの壁画が確実な証拠である。
なお、ネコ科の祖先はミアキスという約6000万年前の中型肉食獣に遡る。ミアキスの特性に近いままプロアイルルスを経て進化した種がネコであり、平原に出て集団狩猟を行う種を経て現在の姿に進化した種がイヌである。